2025/03/28

【Spesial Interview】ニッポン移住者アワード 選考委員特別賞 橋澤義憲さん
千葉県長生(ちょうせい)郡長生村で蜂蜜の生産と販売を行う合同会社HANAPの橋澤義憲さんと妻の小百合さんは、2019年9月に東京都から移住してきた。現在は養蜂事業のほか、ひまわり油を生産販売するなど、多角的な経営を行っている。橋澤さんの作る蜂蜜は、その年で一番美味しいはちみつを選ぶコンテスト、ハニー・オブ・ザ・イヤーで優秀賞を受賞し、長生村のふるさと納税にも採用されるなど、その品質は高く評価されている。 元々義憲さんが移住を考えたのは、現在5歳の娘さんが誕生したのがきっかけだ。小金井市では一軒家に住んでいたものの、庭は広くなかった。橋澤さんはハーブの栽培やDIYが趣味で、自宅の庭でハーブを栽培し、棚などを自分で作るほど。そうした趣味があったことと、幼少期より生き物が好きだったため、身近に生き物が多い自然豊かな環境で娘を遊ばせて育てたい、と考えるに至り移住を決定した。 元々義憲さんは、家畜の飼料関連の業界にいて、原料を提供している海外の企業・団体と契約する「動物栄養の技術者」の仕事をしていた。そのため、アメリカやオランダへの出張が多かった。さらに契約する会社が変わったことから、都内の通勤が基本的にはなくなった。自身が経営者だったこともあり、出費を減らすには住居費の安い場所へ移住するのが良いと考えた。さらに、国内外の出張が多いため、東京にも、成田空港と羽田空港にも行きやすい長生村を移住先に選んだ。 そして移住後、新型コロナウイルスの時代となり、出張ができなくなった。空港へのアクセスが良いから、と選んだにもかかわらず、である。そんな中、近所には空き地が多く、管理するのにも苦労している方が多いと知った。また、昔はもっとヘビやホタルなども多く、近くの川では子供たちが魚とりをするなど、生き物にあふれる豊かな自然があったが、今では、環境が変わり、ホタルは見なくなったし、農業をする人も減ったため管理ができない農地も増えてきているという話を聞いた。 義憲さんもいずれは出張が多い生活よりは、家族と一緒に過ごせる時間が多い方がいいと思っていたうえに、コロナで仕事のやり方が変わったこともあり、地域の遊休地を活用して、自然環境を改善できるような仕事ができないかという思いが強くなっていった。 「出張がなくなり、オンラインミーティングが中心になりました。あの時やっていた仕事自体も先が見えない。一体いつまでこの状況が続くのかも分からず、新しい挑戦をしたいとの想いもあったのです。 最初から養蜂一本でやるつもりはありませんでした。近くの空き地をお借りし、巣箱を数箱だけやってみて、今までの仕事を続けながら管理できる範囲でやろうと思っていたのです。しかし、思いのほか1年目からミツバチをたくさん増やせたし、けっこう蜂蜜も取れたんですよ。これなら上手く販売していければ、生活できるだけの収入になるな、とすぐに実感してしまったんです」(義憲さん) しかし、生活していけるだけの量の蜂蜜を生産して販売するとなると、これまでの飼料関連の仕事との両立は無理と判断。養蜂の仕事の面白さと可能性を感じ、だったら思い切ってこちらを選ぶことにした。上手くいくかはやってみなければ分からないが、思い切って養蜂をやれるだけやることにしたのだ。それまでの仕事からすれば養蜂は突飛なものに思えるかもしれないが、延長線上にあると義憲さんは語る。 「一応、養蜂も畜産業ということになります。鳥豚牛とは違う存在ではありますが、畜舎や土地もそんなにいりません。生き物を育てて食品を作るという点では共通するところがあります。仕事で畜産にかかわってきましたが、いかに生産コストを抑え、いかに動物を健康に育ておいしいものを作るか、は僕の仕事の核になっていました。栄養の知識や、いかに健康に育てるか、といった考え方は、蜂でも応用できると思ったのです」 現在ハーブやひまわりを育てているが、これもミツバチが蜂蜜を作るための蜜源となる。そこからひまわり油にも展開させた。これから新たに農地を借りて野菜や果樹などの作物を育てるが、これも蜜源になる。現在のメイン販路は自社の店舗で約50%。その他にECサイトでの販売やマルシェなどのイベント出店と卸売も行っている。店舗での販売は、主に妻の小百合さんが担う。商品名やパッケージ、ロゴなどは二人で議論しながら作り上げていく。 HANAPの蜂蜜は瓶に入っている。洗練されたデザイン・外見となっているが、商品開発について義憲さんはこう話す。 「パッケージとかも自分たちで作っています。お金をかけずにできることは、自分たちでやっていますよね。瓶の調達や店舗経営など初めての経験ばかりですが、これまでのいろいろな仕事の経験を活かして、やりながら、覚えていっている感じですね」 小百合さんも初めての経験ではあったが、様々なアイディアと、過去のキャリアで得た知識を商品に込めた。 「瓶一つ選ぶにも大変で、今の形にたどり着くまでにけっこう時間がかかりました。まず、どこから仕入れるのかもわからなかったです。色々な人が作った蜂蜜を買ってどれが使いやすいかは比較しました。国産蜂蜜は高級品というイメージもあるので、私はギフトセットも作りたかったんです。もらった人が良いものをもらったと喜んでもらえるように見た目にもこだわって、蜂蜜の色が綺麗に見えるということからも瓶にしました」 小百合さんは元々医療系の仕事をしていたため、「誰でも使える」「片手で使える」など、利便性とユニバーサルデザインにこだわった。広口瓶だと片手が麻痺する人や力の弱い高齢者には使いにくいもの。誰にでも使いやすいものにしたいと考え、片手でも開け閉めしやすい現在の瓶になった。一方で、いわゆる「蜂蜜っぽい」要素が少ないため、マルシェなどでは蜂蜜だと気づかれ難く、そこは欠点だと考えているが、誰もが使いやすい容器で販売したいとの思いがある。 現在橋澤夫婦は長生村の中学校や近隣の小学校に出張授業を行うなど、地元との交流も深めている。今後は、食育活動にも積極的に取り組みたいと思い、地域の農家などと共に「ながいきフードラボ」という食育活動団体を設立した。地域の農産物の魅力を広める農業体験や伝統食などの料理体験も企画したいという。 さらに、普段から蜂蜜を食べない人にも興味を持ってもらうよう、世界最古のお酒といわれている蜂蜜から作った酒「ミード」を作り、「結」というブランド名にした。古代から中世ヨーロッパの特にゲルマン人は、婚礼から1カ月の間、新婦が仕込んだミードを新郎と仲良く飲み、そして親戚縁者が新婚カップルを祝うという風習がある。そうすると早く子宝に恵まれるという祈りが込められていたそうで、これは「Honey Moon(ハネムーン)」の語源なんだとか。「結婚式でのウェルカムドリンクや引き出物にもピッタリのお酒かなと思う」と義憲さんは考えている。