
2025/03/17
【Spesial Interview】ニッポン移住者アワード 子ども未来賞受賞 ダニエル・スペイトさん
三重県桑名市のダニエル・スペイトさんは、1歳児から5歳児までの園児向けに、平日5時間、英語だけの時間を過ごすインターナショナルプレスクールを運営している。オーストラリア出身のダニエルさんは、1988年から1年間、岐阜県関市で交換留学生として過ごした。忍者を含めた日本文化に関心のあったダニエルさんは関市では剣道一級を取るなど、地元に溶け込んだ。
母国で大学を卒業した1992年からは2年間ケアンズにてアドベンチャーツアーガイドの仕事をしたが、日本への思いを捨てきれず、1994年に再来日。最初はワーキングホリデーで東京へ行き、英語講師の仕事獲得を目指した。しかし、当時はバブル崩壊後の不景気もあり、なかなか仕事が見つからず貯金を取り崩す生活をするに至ったのだ。
そんな状況だったが、愛媛県で英会話講師の仕事募集があり、愛媛へ。元々1ヶ月間の契約だったのだが、英会話学校のオーナーが「もっと長くいて下さい」と言い、ダニエルさんは2ヶ月仕事をすることになった。その後は東京で英語講師としての仕事を開始するのに加え、日本語検定1級も取得。
そんなダニエルさんは、交換留学で1年間過ごした岐阜県関市から近い愛知県名古屋市で英語講師の仕事を開始した。2000年には自身の英会話スクールを開業するとともに、トライアスロン大会に出場するなど精力的に活動をし、名古屋生活を満喫するようになる。ではなぜ愛知の隣県・三重県に2014年に移住したのか。ダニエルさんは日本人の妻と子ども4人の6人家族である。
「名古屋にもすごく慣れていたのですが、人生の段階的に『家族を育てるということを考えると、都会である名古屋よりこちらの方がありがたいです。すぐ外に静かな美しい自然があり、子どもを連れて行けます。犬の散歩、竹藪のところ、畑のところを歩けるし、いい環境です。
私は桑名市で自分の子供を育てるのがすごく魅力的に感じたのです。小学校と中学校は自宅から歩いていけるし、近所もすごく住宅街の中に大きい公園があって、公園沿いや中学校沿いには歩行者天国的なものがあります。すごく自然の環境が良くて、子どもたちが様々なことを吸収でき、自由に外で遊べます」
このように自然環境の良さに伴う家族での快適な人生は大事だと考えたが、それまでダニエルさんが仕事として携わっていた大人相手の英語学校については忸怩たる思いがあった。というのも、忙しい社会人は週に1時間通うことしかできないことが多い。そうすると、授業の間は英語に接するものの、すぐに日本語の生活に戻り、英語能力があまり上達しないのである。いわゆる「成長度合い」の遅さはいかんともしがたい。だからこそダニエルさんは、日本人が英語能力を向上するには若い内から英語に接すればいいと考えた。人間性が完成された大人よりも子どもを相手にするということだ。
日本人の1歳児~5歳児に1日5時間英語に触れる環境を生み出せば「生きた英語」を使いこなせるようになるし、若年であるがゆえの吸収力の高さもあるのでは、と考えた。これがプレインターナショナルスクール構想に繋がり、2018年に桑名市で現在の仕事を開始する。このように子どもの教育上良い点については述べつつ、「商圏」も重要なことだ。ダニエルさんは、こう語る。
「名古屋を含めた愛知県内で同じようなスクールを経営している知り合いもいます。他にも四日市や松阪でも同様の活動をしている人に会いました。なぜか三重県の主要な市でも
桑名だけにはない。ならば作ったらニーズはあるんじゃないかと思ったのです」
現在、ダニエルさんのプレインターナショナルスクールに通う子ども達は、園では英語を喋り、家では日本語を喋り、バイリンガルへの道を歩んでいる。だが、英語に接する習慣を失うと能力は落ちるため、卒園した小学生のうち、希望者には週2時間の英語力維持のためのレッスンを提供している。ネイティブの子どもにとっても難解なオックスフォード社のテキストを使っており、卒園した小学校1年生、2年生は継続するように勧めている。3年生からは週50分の英会話クラスを提供している。
ダニエルさんは桑名の魅力については名古屋までの距離が近いことを挙げる。これは首都圏の人にとっては以外かもしれないが、本当に名古屋と三重県の主要都市の距離は鉄道を使えば近いのである。
だが、三重県の若者は名古屋を生活の拠点としがちだ。遊び盛りの世代なのに、名古屋で夜遅くまで飲んでも桑名に帰れる手段が少ないからだ。電車では30分程度で着くのだが、いかんせん22時台以降の交通手段が少ない。だからこそダニエルさんは若者が桑名に住むにあたり、深夜バスの充実を求めている。これを聞いた時「生粋の呑兵衛か!」と心の中でツッコミを入れてしまった。
なお、現在桑名市は「イングリッシュ・フレンドリー・シティ構想」を掲げ、国際化に邁進する計画を立てている。移住者として日本人を呼び込むのは椅子取りゲームのため難しいため、外国人を呼んで都市を活性指せようという計画だ。この記者会見にはダニエルさんも参加し、桑名の発展への貢献をすることとなった。これからダニエルさんが小学生相手のインターナショナルスクールを経営することができるか――。それは今後自治体と補助金等も含め協議したうえでの話だろう。だが、現在園児、そして保護者もダニエルさんの園の存在に感謝している。