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2021/10/29

隠れ蓑

東京情報堂代表 中川寛子

NPO中川寛子

2014年の秋に千葉県の団地内の広場で見た風景が頭から離れない。日曜日の午前中で、広場には小さな舞台が作られており、楽器を手にした数人とそれを紹介するマイク片手の男性が立っていた。

楽器、舞台は立派なのだが、舞台の前に用意された椅子には不思議に思うほど人がいない。舞台に立つ人にプラス2人くらいだろうか。あまりに奇妙な風景だったので、つい演奏を聞いてしまった。高齢化が進んでいる団地のことでもあり、奏者はみな年代の高い男性たちだったが、腕は確かで楽しく聞いた。だが、演奏が始まっても観客は増えるわけではなく、最後まで寂しいままで終わった。

 

終了後、マイクを握っていた白髪の男性に話を聞いた。
「こんな素晴らしい演奏なのに、ずいぶん観客は少ないのですね」。
ここ2〜3年、続けているイベントで毎回きちんと告知はしているのですがと男性。ほらそこにと脇にある立看板を示す。団地内のスーパーや集会所などにもポスターは貼っているんですとも。
「SNSでの告知はしていらっしゃらないのですか?」
「いやいや……」。
それ以上の答えはない。マイクの男性も奏者の人たちもおそらくSNSには縁のない暮らしをしているのだろう。だから、立て看板で、ポスターで告知というわけである。だったら、若い人たちを仲間に引っ張り込んで告知してもらえば良いのにと内心思ったが、そんなことを言っても「いやいや……」以上の答えはなかろう。一生懸命やっているのに、どうして成果が出ないのかとは思ってはいるだろうが、だからといって若い人に何かを頼みたくはない、あるいはそうした伝手もない、そんなところなのだろう。

 

初めてその風景を目にして以来、何度も似たような状況に出くわすようになった。特に2015年に空き家をテーマにした書籍を出して以来、空き家、まちづくりに関する活動に接する機会が増え、遭遇頻度が上がった。
中心になって頑張っているのはたいていリタイア後など、ある一定年齢以上の男性で、取り組みは様々だが、聞かされた愚痴に対して実務的なアドバイス、人の紹介などをすると途端にそれは不要ですというのは共通している。いくら紹介されても若い人に協力を仰いだり、使ったことのない新たなツールにチャレンジするつもりはないというのである。アドバイスを聞くつもりがないなら愚痴を言う必要もなかろうと同じ場面に出くわす度に謎に思っていたのだが、先日、友人たちと話をしていて突然、その謎が解けた。その時の話題は定年退職だったのだが、彼女たちによると「定年あるある」として、NPOや何とか協会のような団体を作り、理事長、理事などになって活動を始める人が少なくないという。定年退職で失われる肩書を補おうと外に団体を作ってそこで新たな肩書を得ようとしているじゃないのというのが彼女たちの意地悪な意見だ。

 

意地悪ではあるが、なるほど!と思った。疑問が一気に氷解した。
活動は実は隠れ蓑で、本音は肩書を得たい、世のために頑張っている自分を装いたいのだとしたら、愚痴は言ってもアドバイスは聞くまい。自分が親分になるためにやっている活動である。本気で実現してしまうような他の人を引き入れたくはないはずだ。
なるほどとは思ったが、その活動のための時間、手間、回りくどいアピールのなんと無駄なことか。おそらく本人も自分の秘めた気持ちに気づいてはおらず、周囲も善意からの活動と思っているからだろう、けっこうな数の人たちが巻き込まれ、振り回されている例もあり、周囲の人たちには気の毒でもある。しかも、そうした活動にも時としていろいろなところから助成が出されていたりするのである。
もちろん、そうした団体、活動ばかりではないことも分かっている。だが、掲げられた理想が常に真実であるとは限らないのが世の真実でもある。外からのアドバイスを聞こうとしない、つまらない理由を口実に目的に到達できる手段を排除する人たちの活動にはちょっと距離を置いたほうが良いのかもしれない。気づいて以来、意地悪な目でさまざまな活動を眺めている。

中川寛子 東京情報堂代表

住まいと街の解説者。(株)東京情報堂代表取締役。オールアバウト「住みやすい街選び(首都圏)」ガイド。30年以上不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービスその他街の住み心地をテーマにした取材、原稿が多い。主な著書に『「この街」に住んではいけない!』(マガジンハウス)、『解決!空き家問題』(ちくま新書)など。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会各会員。

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