2024/11/01
歴史的建築物について考える
日本各地の県庁所在地を訪れると拍子抜けすることが多いです。基本的には政治・産業・メディア・教育の中心地なだけに、合理性を追求した近代的な建築物だらけだからです。観光を楽しむというよりは通勤・通学する場所、住む場所としての機能が重視されています。
そして、大学にしても新たなキャンパスを作ったりする場合は古いキャンパスは壊し、オフィスビルのような高層階の建物に教室がビッシリと入っている。私は部外者ながら1998年、趣のあった明治大学駿河台キャンパスの「記念館」が巨大なリバティタワーになったのを見て、「前の方がカッコ良かったな……」なんて思ってしまいました。
日本の平野部が狭いのと、大都市に人が密集しているから仕方がない面もあるのですが、だったらせめて人口が少ない地方都市は古い建物を維持する方向に持って行ってはいかがでしょうか。最近出会った某県の職員は、古いものを維持することが文化の継承と観光資源になる、さらには特別な体験を提供できる、と考えその取り組みを強化すると語っていました。
実例としては、京都にある任天堂の旧本社・丸福樓がホテルとして2022年にオープンしたのに加え、カナダには「ヘリテージパーク」という施設があり、人気です。これは、西部開拓時代の建物を集めて当時の文化とかが分かるようにしたものです。
東京でも代々木第一体育館や東京駅舎、安田講堂、築地本願寺など名建築が多数あり、全国から建築ファンが訪れます。しかし、関係者はこう語ります。
「維持・修繕にお金はかかるものの、大事にすることで価値を生むことを考えています。投資をするからには、わざわざ来てくれる利用者からお金を取れるような運営をしていければ、と考えます」
1997年代後半、銀座の「交詢社ビル」という洋風建築に入っていた「ピルゼン」というビアホールによく行っていたのですが、ビルの建て替えとともにお店もなくなりました。新しいビルは当時の面影は一部残しているものの、やはり大部分は現代的な機能性重視の作りになっています。ここを通るたびに勝手ながら「もう手に届かないところに行ってしまったんだな……」という寂しい気持ちになるのでした。まぁ、無駄なセンチメンタリズムではありますが。
古い建物ってEU・北欧・南米にはかなり残っているものです。ヨーロッパの都市では「新市街」と「旧市街」が明確に分かれている。チェコのプラハなんてその最たるもので、旧市街の歴史的建造物の数々は世界屈指の美しさだと感じられました。それと同時に、歴史を大切にするチェコの人々のことを考えるとともに、たまたま戦争で焼け野原にならずに良かったな、とも思うわけです。トルコのイスタンブールの旧市街も巨大なモスクがあって、ただ歩いているだけで十分な娯楽になりました。
翻って日本ですが、古いものを大事にする好例としては「現存12天守」があります。江戸時代以前に建設された木製の城で復元天守等とは異なります。弘前城、松本城、丸岡城、犬山城、彦根城、姫路城、松江城、備中松山城、丸亀城、松山城、宇和島城、高知城ですね。「日本三名城」の一つである熊本城が入っていないのは意外だったのですが、あれは福毛天守だったのですね。
これら12の城は別格扱いされているわけで、城を守ってきた各自治体、同様のことを各地の名建築に対して自治体は維持できればな、と思うのです。それこそ、円安の今、お金持ちの外国人からは二重価格で高い金額を取るのも手では。日本は衰退途上国であるため、発展途上国同様に拝観料等は国民は適正価格で、外国人は高くしても「我が国よりは安いな」という気持ちになるのでは。
いずれにしても、この手の活動は自治体と地元の熱心な人が組む必要があります。私のいる唐津市には、出身者である辰野金吾が監修した「旧唐津銀行本店」があります。この建物はNPO法人「唐津赤レンガの会」が活性化に向けた取り組みをしており、会長の田中勝さんは熱心にPR活動やイベントを行い、建物を訪れた人に辰野金吾や辰野金吾の建築物の解説をし、盛り上げを図っています。