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2021/08/05

自治体の情報発信は昔も今もウチ向き?

東京情報堂代表 中川寛子

中川寛子観光

10年以上前、全国の自治体ホームページから子育てや住宅関連その他の支援策を抽出、一覧にするという仕事をしたことがある。対象となったのは首都圏のうちの一都三県、中京圏の三県、近畿圏のうちの二府三県と県庁所在都市、政令指定都市。
3カ月弱集中してこれだけの数の自治体ホームページを見続けたことで、一見同じように見えてもその作り方、伝えようとする姿勢にはかなりの違いがあることが分かってきた。ホームページを比べると、その自治体が行政の仕事の全体像をどのように認識しているか、透けて見えるのである。
もうひとつ、特に強く感じたのは多くの自治体のホームページが内側を向いているということである。すでに住民であり、その土地を知っている人にだけ向けて情報を発信しているのだ。
その好例がホームページ内の住所や電話番号の記載だった。●●県を省略して▲▲市から始まる、市外局番がなく電話番号が始まるといった自治体があったのだが、それは知っている人だけが見る情報だから省いてもいいよねという暗黙の了解の上に成り立っていたのだと思う。住民以外が見ることはないからそれでよし。その時代であれば、それでよかったのだろう。
だが、今に至り、地方創生などという言葉が身近になっても、やはり、自治体の情報発信は分かっている人向けでしかないと思うことがしばしばある。さすがに都道府県名、市外局番を省略している自治体は無くなりつつあるようだが、それでもまだまだ不足と思う部分は多々ある。
不足部分が最も分かりやすいのは観光情報だ。自治体が直接というより観光協会が手掛けていることが多いとは思うが、観光情報は基本外部の、その土地を知らない人間を対象として発信されている。それなのにその土地を知らないと理解できない内容になっていることが少なくないのだ。
たとえば、ある自治体の観光情報ページでは行きたいエリアを選択すると、そこにどのような観光スポットがあるかが表示される。だが、エリア名を羅列されても、土地勘のない人間にはそもそもそのエリアがどこにあるか、自分が宿泊するのがどのエリアなのか、駅はどのエリアにあるのかが分からない。選べと言われても選べないのだ。
ちなみにこのやり方は観光情報以外でも多くの自治体で取り入れられている。●●市が5つのエリアに分かれているなんて外の人間には分かりませんよ、である。
あるいは地域分けも何もなく、史跡、遊園地、公園などが一覧表になっている自治体もある。どうしてもその自治体に行きたいならそれぞれの住所を地図に落とし込み、自分でコースを作れば良いのだろうが、そこまでして行きたいわけでなければ、お隣の半日コース、1日コースと所要時間を設定、地図を掲載しているまちに行く。
一覧表はさすがにそれほどは見ないが、それでも観光施設等が一覧になっており、それぞれが単体の点としてしか存在していない例は多々ある。最近はグーグルマップが付加されていることが多く、その場所を知ることはできるのだが、まち全体の地図がない自治体もあり、他の観光スポットとの関係が分からないことはしばしば。ざっくりとでもまちの全体像と訪れる場所の位置関係を知ってから巡り始めたいものだが、そうはなっていないことも多いのである。
その一方で様々なコースを設定、それを分かりやすい地図で紹介したり、街歩きをガイドしてくれるアプリを導入する例も増えている。

 

 

先日訪れた都市の街歩きアプリには市販のガイドブックにはおよそ載っていないであろう長短さまざまな散策コースが30弱も用意されており、一般の観光客がよく訪れる市内中心部だけでなく、郊外の自然を楽しむコースなども。

これがあるなら、近いうちにまた、この街に来てみようと思ったほどで、普通だったらお城と神社を見ておしまいとなる観光客を二度、三度、しかも中心部以外にも呼べるとしたら、アプリの効果、偉大である。

もうひとつ、こうしたアプリや地図類は地元の人が地域を見直す契機にもなるのではないかとも思った。まちづくりの最初の一歩はたいてい、自分のまちを歩いてみるところから始まっているのだ。

そう考えると自分のまちを外の人に分かりやすく説明できるということは単に観光のための情報以上に大きな意味がある。そして、その説明の仕方に自治体差があり、その差は年々開いている様子。外から見ているとその違いはよく見えるのだが、ウチにいる人たちにも見えているだろうか。気になるところである。

中川寛子 東京情報堂代表

住まいと街の解説者。(株)東京情報堂代表取締役。オールアバウト「住みやすい街選び(首都圏)」ガイド。30年以上不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービスその他街の住み心地をテーマにした取材、原稿が多い。主な著書に『「この街」に住んではいけない!』(マガジンハウス)、『解決!空き家問題』(ちくま新書)など。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会各会員。

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