2021/11/05
オスは繊細
これまでたくさんの出会いに恵まれて、メジャーデビューすることができて早12年が経ちました。
昨今、全国各地をキャンペーンやライブで飛び回っていた頃が少し懐かしくも感じます。この12年間で、こんなにも新幹線や飛行機に乗らない日々は初めてです。それほど僕らは全国各地に行かせてもらっていました。47都道府県を全て網羅したツアーも二度も経験させてもらいました。各地の思い出を並べていたら到底ここには書ききれないほどの思い出があります。
その中から今回はデビュー当時からラジオのレギュラー番組をやらせてもらったり、ライブでも何度もお世話になっている北海道のことを書きたいと思います。きっと皆さんも、たとえ仕事だとしても「北海道に行く」というのは他の地域に比べて少し特別感があると思います。本州から離れ、気温も変わり、文化も少し違います。僕らも最初はそうでした。ですが、ラジオのレギュラー番組の収録のため、2週間に一度行くようになってからは、手ぶらで行けるようになりました。だいぶ北海道を近くに感じていますし、マイルも信じられないスピードで溜まっていきました。
あれはデビュー直前の頃だったと思います。まだ北海道に行くことにだいぶテンションが上がって、キャリーケースに山ほど荷物を詰め込んで、来道中はカニかジンギスカンか味噌ラーメンを必ず食べないと気が済まなかった頃の話です。札幌市内からほど近い円山動物園という動物園でライブをやらせていただきました。お昼のライブだったので、開園前のかなり早い時間からリハーサルしたのをよく覚えています。開園前のまだ誰もいない動物園に入れることも滅多にないので、リハーサル前にワクワクしながら天気のいい園内を少し散歩しました。開園前に木陰で静かに朝食?らしきものをこちらにわき目もふらずに食べている動物たちは、なんだか出勤前のお父さんのようでした。野外ステージに簡単な機材を組み、いざリハーサルを始めると何やらこちらのスタッフと、動物園の飼育員さんたちが難しい顔をしながら話し合っているのがステージから見えました。リハーサルも無事に終わり、ステージから降りるとマネージャーさんから衝撃的な一言。「オスのオランウータンが檻から出てこないらしい。」「…え?」
詳しく話を聞いてみると、オランウータンはとても繊細な動物らしく、朝からいつもと違う雰囲気と、大きな音にビックリして檻から出てこなくなってしまったらしい。ちなみにメスのオランウータンはいつもと変わらず檻から出て過ごしていたらしいです。図太い。逞しい。オス繊細。
とにもかくにも僕らとマネージャーさんは吹き出すのをこらえながらどうしようかと考え、一度出した機材をもう一度しまい直しました。そりゃ動物園ですから。動物が最優先ですから。なんとか飼育員さんたちとの話し合いの末、近くの売店の奥の小スペース(一応屋内)に場所を確保して、機材を組み直し、無事にライブを敢行しました。ライブのMCでもバッチリオスのオランウータンのことをイジり、男の繊細さを語り、大盛況のうちにライブは終わりました。その売店で買ったトナカイ?のお面をしばらく山田はシルクハットに着けていたのもよく覚えています。あの場所でライブをやったのは僕らが初めてだったのか、とか、事前に調べることはできなかったのか、とか、色々考えることもできますが、今となってはとてもいい思い出です。
所謂「みかん箱」があればどこでも歌は歌うことができます。どこでもステージになります。今はネットを通じて、どこからでも整った状態で歌を届けることが出来ますが、この12年間、様々な「初」に挑戦し、たくさんの「みかん箱」の上に立ってきたからこそ、今の僕らがあるんだと思います。整った状態であるに越したことはありませんが、またあの「みかん箱」の上で歌が歌いたい今日この頃です。