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2023/04/04

ガチな、料理を考察する

中川淳一郎

「ガチ中華」という言葉があります。日本にある海外料理を提供する飲食店のウリは「〇〇に慣れていない日本人のお客様に合わせて××としています」といったものが定番となっていました。いわゆるローカライズされた海外料理だったのですが、それとは異なる海外料理のことです。ガチ中華という言葉自体はなかったですが、その手の食は1980年代にはありました。中国から日本にやってきた人がやはり故郷の味が食べたい、ということで、日本人に忖度しない味を提供するようになったのです。

 

ここ数年使われるようになった言葉ですが、私は2005年頃、池袋駅北口で「ガチ中華」をよく食べていました。その頃、中国・大連へ取材のため出張をし、怪しくも美味なる中国東北地方の料理を気に入ってしまったのです。その話を出版社の人にしたところ、池袋北口に中国料理をそのまま出すような店が何軒か存在すると伝えられました。

 

「全然味付けを日本人に合わせていません。そして愛想も悪いですが、それがいいんですよ!」

 

彼は当時これらの店にハマっていたようです。確かにすごい。大皿に豚の背骨を煮込んだものがドカーンと出てくる。骨入れのボウルも用意され、唐辛子の効いたスープとともに肉をほじくりながら食べるのです。麻辣の辛さも中国っぽい。

 

現在私はタイ・バンコクにいますが、タイ料理は当然「ガチタイ」です。しかし、アラブ料理も「ガチアラブ」で、「ガチミャンマー」や「ガチレバノン」もあります。欧米人が多いため「ガチ英米風ブレックファストメニュー」や「ガチステーキ」もあります。日本料理は行ったことがないので分かりません。

 

こうした店に母国・同一地域出身者も行くわけで、店内はそれらの人々が多いものの、地元の人や外国人観光客も来ています。本稿執筆時、ナナというエリアに滞在しているのですが、ここにはアラブ料理があり、シャワルマが本当においしい。シャワルマは日本でもよく見られるドネルケバブに似たもので、サワークリームやライムなどをかけて食べます。

 

現在はすっかりこのアラブ人街での食が気に入ってしまい、ガチアラブへ何度も通っています。前出のガチミャンマーにも何度か行きました。

 

日本でも池袋のガチ中華や、東京都江東区のガチインド、群馬県大泉町のガチブラジルなどが出身者のみならず日本人にも人気です。地元の常連もいるでしょうが、これらの国を旅行したり駐在したりした経験から「ガチ〇〇」を食べたくなることもあり、訪れる例もあるでしょう。

 

せっかく「ガチ」という言葉が誕生したのですから、一つの自治体に3軒以上この手の飲食店があったらPRに使えるのではないでしょうか。私は20代中盤頃、ガチブラジルが好きな友人に連れられて、何度も関越自動車道に乗り、群馬県大泉町へ行ったものです。フェイジョアーダという、豆とソーセージを含めた肉類が煮込まれた褐色の食べ物です。

 

以前よりも海外の食材が手に入りやすくなった現在、さらに本格的なガチ料理を作りたい人もいるでしょうし、懐かしの味を食べたい人もいる。「ガチ〇〇」は、そうした人々がわざわざ訪れるきっかけを作ってくれるでしょう。

 

また、ガチ〇〇の優れた点は、何かとネットニュースになりやすい点です。たとえば、東京のベッドタウンにおいしいリヒテンシュタイン料理店があったりした場合、ネタを集めたい記者としては「一体どんなもの???」と取材したくなるかもしれません。「ガチ〇〇」、案外観光資源になるのでは、と今回のタイ滞在で思いました。

 

中川淳一郎

1973年東京都立川市出身。1997年に博報堂に入社し、CC局(現PR局)に配属される。2001年に退社し無職を経てフリーライターに。以後、雑誌テレビブロスの編集を経て2006年からネットニュース編集者に。2020年8月31日をもって「セミリタイア」をし、11月1日から佐賀県唐津市に引っ越す。2023年2月いったん唐津市を離れ、現在タイ・バンコクにてひっそりと暮らしている。

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