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2023/03/07

お国自慢の“さじ加減”

中川淳一郎

自身の自治体の「ウリ」と考えていることをあまりにもドヤ顔で自慢していると、別の自治体の人からすれば「ケッ」と思うことってのがあります。これにまず気付いたのが、大学時代のこと。

 

私は東京都国立(くにたち)市にある大学へ通っていたのですが、やたらと市民が自分の街の文化度合の高さを誇っていたんですよ。それは美しい「大学通り」という通りがあったり、高級スーパーの紀伊國屋があること、さらには山口百恵さんが住んでいることなども根拠になっていました。しかし、一番大きな理由は「文教地区である」ということだったと思っています。

 

リベラル系が強い街だな、といったイメージはありました。景観をめぐり、マンションの上20m部分を撤去するよう住民は抗議活動をし、裁判を起こします。一審では原告が勝訴しますが、高裁・最高裁では認められずマンションは維持されました。駅前ではビラを配る市民がいましたし、「意識の高い街」といったことは常に思っていました。

 

そして「文教地区」です。文教地区とは教育施設が多く集まるエリアのことで、パチンコ屋や風俗店、ラブホテルなどは建てることができません。国立には一橋大学、東京女子体育大学があり、かつては国立音楽大学がありました。高校でも国立高校と桐朋高校という進学校があり、国立音大附属高校があります。

 

こうしたことから、市民は文化度と教育水準の高さと、健全な街であることを誇る面があり、国立市民にとっては誇らしかったように感じられます。大学時代、学生街ですから国立にも雀荘はあったのですが、それを嫌がる市民もいました。文教地区にはそぐわない、といった言い方をする人と会ったこともあります。今はその雀荘はありません。

 

そして、それは同時に、隣接する立川市と国分寺市という風俗店もあればラブホテルもキャバクラもあるような街を見下す結果となります。私は立川から国立に自転車で通っていたのですが、国立に家を買ったような中高年と喋っていると明らかに「えっ? そんなにガラが悪いところに住んでるの? 国立に住めばいいじゃん」といった気持ちを抱いていることが分かりました。

 

何か誇るべきものがある街の住民やその自治体が我が街をPRするにあたっては、何らかのマウンティングを仕掛けてしまうことがあります。文教地区の住民・役所からすれば、「健全で子育てしやすい街」というところが一つのアピールポイントとなります。しかし、私のような立川の人間からすれば「お前ら国立市の男がキャバクラや風俗店に行きたい時、オレらの街が引き受けているのに何エラソーにしているんだ。職業差別・地域差別するんじゃねぇ!」とも思うもの。

 

けっこうこの「文教地区」ってヤツをアピールする時は本当に配慮が必要だと思います。何しろ立川市民からすれば国立市って「お高くとまったイケ好かない市」的なイメージもあったんですよね。となると、今度は立川の駅前が再開発で賑わい、IKEAができたりもすると「国立市民は市内で買い物しとけ」なんて気持ちにもなってしまう。

 

「お国自慢」はその匙加減が難しいものです。皆さんの街も何かPRをするにあたっては、「隣の自治体がどう思うか?」を考えてから情報発信をした方がいいでしょう。本当は立川・国立・国分寺で組んで大々的に観光誘致をするのもアリなんですけどね……。3つともかなり魅力的な自治体ではあるので。

中川淳一郎

1973年東京都立川市出身。1997年に博報堂に入社し、CC局(現PR局)に配属される。2001年に退社し無職を経てフリーライターに。以後、雑誌テレビブロスの編集を経て2006年からネットニュース編集者に。2020年8月31日をもって「セミリタイア」をし、11月1日から佐賀県唐津市に引っ越す。2023年2月いったん唐津市を離れ、現在タイ・バンコクにてひっそりと暮らしている。

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